iPadやMacは、デジタル作品を作るためだけの道具ではありません。木材や紙、陶器など、実際に手で触れる素材を使ったものづくりの前後にも役立ちます。
Appleは2026年10月20日、Design Miamiと協力した「Designers of Tomorrow 2026」で、4組のデザイナーの作品と制作過程を紹介しました。テーマは「presence(存在・いまここにあること)」。完成品の美しさだけでなく、デジタルツールがどのように構想、試作、記録、共同制作を支えているかに注目すると興味深い事例です。
1. Yoonjeong Lee:iPad Proでスケッチし、手で素材を積み重ねる
ソウルを拠点とするYoonjeong Leeの「New Form」は、短くなった鉛筆を留め具のように使い、紙のランプシェードと木製のテーブル・照明を組み合わせた作品です。木の土台は約5,000枚の薄い突き板を重ねて制作されています。
制作の構想にはiPad ProとApple Pencilを使用。思いついたことをスケッチし、メモを取り、iCloud、AirDrop、Apple純正メモでデバイス間の情報をつないでいます。
ポイントは、iPadで完成品を作るのではなく、手を動かすための構想と記録をiPadに任せていることです。
2. Isabel Rower:iPhoneで工程を撮影、Keynoteでイメージを組み合わせる
ブルックリンを拠点とするIsabel Rowerは、陶製ビーズの装飾を施した椅子「Padded Chair 1860」を制作しました。
日々の発想や制作過程はiPhoneで撮影し、MacBook Proで個人的なビジュアルアーカイブを構築。Keynoteで画像とテキストを並べ、アイデア同士の関係を探ると紹介されています。
Keynoteをプレゼンテーションの完成版を作る道具としてだけでなく、素材写真や言葉を並べる「考えるためのキャンバス」として使っている点が参考になります。
3. Parafernalia:離れた場所でiPadのスケッチを共有する
Genki MatsumuraとSebastián ZorrillaによるデザインスタジオParafernaliaは、閉じた状態では金属の風景のように見え、開くとテーブルと椅子になる「MonoAmbiente 1」を制作しました。
2人は離れた都市で活動し、iPad Pro、Procreate、メッセージ、FaceTime、iCloudなどでスケッチや進捗を共有しています。
同じ作業机を囲めなくても、視覚資料と会話を行き来しながら制作を進められることが、この事例のポイントです。
4. Salem S. Charabi:Macで立体を設計し、自然素材で組み立てる
エジプト系デンマーク人建築家Salem S. Charabiは、ヤシの葉、バナナペーパー、石灰岩を用いたランタン「The Emergence of Light」を制作しました。
MacBook Proでスケッチと3Dモデリングを行い、複雑な部材の位置関係を検討。その後、素材の加工と組み立ては手仕事で仕上げています。
デジタルで精度を高める工程と、素材を扱う職人技を分けていることが特徴です。
ソーイングにも応用できる、3つのデジタル活用
デザインと型紙の構想をiPadに残す
Apple Pencilでシルエットをスケッチし、袖や襟の候補を描き比べます。手描きの構想と実際の製図を区別して保存すると、後から「何を実現したかったのか」を振り返れます。
生地・試作・完成までの写真を一つの作品にまとめる
生地の表情、裁断配置、仮縫い、補正箇所、完成後の着用写真を同じ作品フォルダに保存します。ObsidianではMarkdownの作品ノートから画像ファイルを参照し、変更した寸法や次回の改善点を記録する方法が考えられます。
制作資料はアプリに閉じ込めず、再利用できる形にする
アイデア出しにはiPadやKeynote、手書きにはApple Pencil、写真にはiPhone、文章や補正履歴にはMarkdown、と道具を分ける方法です。Gitを使う場合は、型紙のSVGやMarkdownの変更履歴を管理できます。ただしPDFや写真はGit上で差分が読み取りにくいため、版番号や説明を別途残すとよいでしょう。
手仕事を置き換えるのではなく、手仕事を支える
今回の4組に共通しているのは、デジタルツールの機能そのものを作品の主役にしていないことです。
スケッチ、記録、資料整理、遠隔での相談、立体の設計。必要な部分でiPadやMacを使いながら、最後は素材に向き合い、手で形を作っています。
洋裁やニットソーイングでも、手で作る時間を大切にしながら、その前後の思考や制作記録をiPadで支える使い方ができそうです。
※本記事の4組の制作方法はAppleの発表に基づきます。Obsidian・Markdown・Gitを使ったソーイングへの応用は、紹介事例から考えた提案であり、登場デザイナー自身の運用方法ではありません。




